琥珀色【前編】

22

 遊びならと言いながら牧野の表情は硬いままで、その体は寒さのためか、それとも緊張のためか、わずかに震えていた。涙腺が壊れてしまったように涙をこぼし、まるで助けを求めるかのように庄司の背に強い力でしがみついてくる。戸惑いながらも欲望に抗いきれず、庄司からも牧野の体に両手を回すと、掌から素肌の熱が直に伝わってきた。今まで触れてきた誰よりも、その張りつめた肌は熱い気がした。
 いや、熱く感じるのは、自分の体もまた熱を発しているからだ。牧野への欲望にどうしようもなく昂ぶる体が、互いの熱を更に上げているように感じるのだ。女の脂の付いた柔らかな体とは全く違う手触りだったが、手のひらに直接感じる薄い皮膚や、しっかりとした骨の感触を確かめていると、興奮して背筋が震えた。
 堪え切れずに、巻き込むように牧野の体を抱き込んで、今度は自分から強く唇を合わせる。その勢いに彼が瞠目するのが分かったが、もう止まらなかった。野蛮なまでの勢いで身に着けた服を脱ぎ捨てながら、夢中になって口中を貪る。熱くて、柔らかい肉。綺麗に並んだ歯列の奥の上顎を舌先ですうっと撫でると、感じた男の体がわずかに震えるのが分かった。止まる気配の無い牧野の涙を指先でぬぐってやりながら、今は少しでも心の傷みを忘れて欲しくて、何度も何度も舌を絡めた。
 そうしながらも、心は悲しかった。牧野は遊びならいいだろうと言う。だがそうしたがっているのはむしろ牧野のほうだと思った。受け入れられず、行き場をなくしてしまった長谷川への想いを、代わりに自分にぶつけようとしているのだろうと自虐的に思う。だがもしそうであるのならばなおのこと、せめて牧野の体だけでも欲しくて飢えを満たすように手を伸ばした。
 下肢を覆っていた布を剥ぎ取ると、牧野の欲望はすでに反応を見せて勃ち上がっていた。それを見た瞬間、頭の芯までカッと熱くなる。余すところなく触れ、唇で肌を強く吸い上げて所有の証を男の体に刻み、牧野が戸惑った顔になるほどの熱心さで飽きることなく口づけを繰り返した。
 重ね合わせた体を動かすと、下腹で自分のものと牧野のものとが擦れ合う。そこは互いに硬く反応しきっていたが、そのことに嫌悪を感じることはなかった。むしろ牧野が自分の愛撫に応えてくれた証のように思えて嬉しくて、ためらわず庄司はそこに手を伸ばした。
「あ……っ」
 ひくついている欲望を指先で擦り上げると、牧野が頤を上げてかすれた声を出した。自分の愛撫に感じていると思うと、背筋にぞくぞく震えが走る。ぬらつく先端に爪を這わせ、勃ち上がったそれの裏筋を指でなぞると、牧野は息を呑み庄司の背中に強く爪を立てて、下腹を痙攣させながら白い粘液を飛ばした。
「くっ……、あ、はあ……」
 荒い息とともに上下する引き締まった腹部に、半濁の液体が散っている。まだ温かいそれを掌で伸ばすようにすると、薄い皮膚が過敏な反応を見せてひくついた。触れれば必ず反応を返してくれる熱い肉体に、我を忘れてのめり込んでいく。
 牧野の精をすくい取り、濡れた手で彼の後ろに触れると、荒い息を吐きながらじっと目を瞑っていた牧野が、けだるげな様子で庄司を見上げた。その瞳の中に拒否する意思がないことを確認してから、庄司は後肛にゆっくりと指先を潜り込ませていく。
 すぐにギュッと締め付けてきたその内側の熱さに驚きながらも、どこに触れれば牧野を感じさせてやれるのか分からず、不器用な熱心さで庄司は牧野の内側を探り、彼の反応を確かめながら指の本数を少しずつ増やしていった。
 ろくな潤滑剤もない行為が苦しいのか、牧野はきつく眉をひそめ、唇を噛み締めていたが、行為そのものを制止しようとはけしてしなかった。普段の傲慢ぶりが嘘のような従順さで、何もかもを庄司の好きなようにさせている。
 もっと時間をかけるべきだとは思ったが、しかし熱しきった欲望を押さえ込むことが次第に難しくなってきて、庄司は差し込んでいた指を引き抜くと、代わりに自分の身を収めていいかと牧野に目で問いかけた。
 眉間の皺をほどき、牧野が潤んだ瞳で太く逞しくそそり立った庄司の欲望を見詰める。小さく喉を鳴らしてから、視線はそのままにゆっくりと身を伏せると、牧野は屹立を口に含んだ。温かい口中に含まれ、口壁で上下に擦られて、庄司は息を呑む。勃ち上がりきったものが、さらにどくりと固く、大きくなる。
 庄司が限界を迎える寸前に口を放すと、牧野は片手を庄司の肩に回して身を安定させ、もう片方の手で唾液で濡れ光る欲望を支えた。そして互いの距離を図りながら腰を落としていく。
 庄司が驚いて眼を見開いている前で、少しずつ少しずつ、己の欲望が牧野の体内に収まっていった。その顔が、快楽と痛みに酔っている。あさましいほど淫らな光景に堪えきれず、その引き締まった腰に手を回して、庄司は下から男の体を激しく突き上げた。
「ん、んっ」
 男に慣れない庄司の抱き方は、やはり相当きついのだろう。牧野は全身から冷たい汗を流し、強張った体をかすかに震わせている。
「牧野さん……」
 きつく閉じたまぶたから一筋の滴が流れ落ちるのを庄司は唇で吸い取ると、自然にそのまま唇を重ね合わせた。激しく舌を絡ませながら、何度も何度も庄司は腕の中の体を突き上げた。
 愛しさの全てを込めて牧野の中に精を吐き出し、それでも足りずに体位を変えてまた動き出す。貪るように牧野を抱きながら、体だけでもこのまま永遠に結びついていられたらどんなにいいだろうかと思って、庄司もまた泣きそうになった。
 やがて疲れ果てた牧野がそのまま意識を失ってしまっても体を離してしまうことが惜しくてならず、庄司はなおしばらく、そのまま牧野の体を強く抱き締めていた。

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