神殺しの男【神殺しファルーク】

序章

祈れ 祈れ 祈れ 祈れ
神の愛は惜しみなく注がれ 悪魔の愛は無限である


* * *

 手足が引きちぎられそうな激痛に、彼はうめいた。
 ここ半年で味わい尽くした痛みだ。それでもその苦痛は未だ途切れることなく、彼を苛み続けている。両手足首に縄を括り付けられたまま、四方に思い切り引っ張られているような、そんな身体中がバラバラになりそうな痛みと、身体中の関節を常に万力で締め上げられているような痛みが交互に彼を襲い、絶えることが無い。まるで拷問だった。
 止まらない肉体の変化が、この痛みを招いている。
 鏡を覗かずとも、自分の体が恐ろしい速さで変化しているのが分かった。この手の平、この足、この髪、全てが、今までの慣れ親しんでいた自分の姿からは激変しつつある。そのことに彼は泣きそうになる。これではもう戻れない。以前の自分には、もう決して戻れない。
 何故!? と、彼は激しい憤りとともに、虚空に問い掛けた。
 何故自分がこんな目に遭うことになったのか。どうしてこんな忌まわしい、汚らわしい姿にならねばならなかったのか。
 そしてその答えは聞くまでもなかった。全てが、一人の男が犯した大罪から起因しているのは、あまりにも明らかであったから。
 許せない。
 ギリギリと奥歯を磨り減るまで噛み締め、自由にならない身体を引きずるようにして、あてどなく地上をさ迷いながら彼は誓う。
 絶対に許さない。お前は、この私が殺す。その罪を、その身で(あがな)わせてみせる。

 ――――許すものか

ファルーク!!



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